強い円は、日本の国益に適う?
今週、ある大学において、学生さん達を前にして“為替の話”をすることになり、いかに“ぶっつけ本番”が得意の塾長とはいえ、“ちっとは”ちゃんとした準備をすべきだと思って、色々考えた。
その内の一つに、“円高、円安どちらがいいか?”というテーマを入れた。
先ずは、円高メリット。=(当然これは、円安ディメリットと同じである。)
* 輸入物価が下る。=インフレ抑制、我が国の購買力増大。
* 低金利の維持がし易い。=財政赤字の金利負担が抑えられる。
* 企業の構造改革が進む。=将来の競争力強化。
次に、円安メリット。=(当然これは、円高ディメリットと同じである。)
* 輸出企業の採算が改善する。=景気にプラス。国内の需給不均衡を外需で埋められる。
* 外貨建て資産の評価が上がる。=本邦投資家のバランス・シートが改善される。
* 日本の財が海外の投資家にとって買い易くなる。=デフレ圧力が減殺され、国内資産価値の上昇が見込まれる。
円高にも、円安にもいい点(メリット)と悪い点(ディメリット)があるのは当然であるが、もう少し検証してみよう。
円高メリット。
* 輸入物価が下る。=インフレ抑制、我が国の購買力増大。
我が国は、永らくデフレ圧力に泣かされ、物価が下り続けてきたが、それは去年までの話。原材料・穀物・エネルギー価格の高騰により、昨今の物価の上昇には驚くべきものがある。
今の円安状況が続けば、遅かれ早かれ、我が国も強烈なインフレ圧力に晒されるであろうことは明白である。 円高O。
* 低金利の維持がし易い。=財政赤字の金利負担が抑えられる。
超低金利が続き、我々預金者にとっては利上げが望ましいところであり、現状では別に円高が必要とは思われない。 円高△。
* 企業の構造改革が進む。=将来の競争力強化。
1971年のニクソン・ショックで、ブレトン・ウッズ体制が崩壊し、ドル・円相場は1ドル=360円の固定相場が崩れて以来、円は一貫して上昇し続け、1995年には1ドル=80円を割り込むほどの円高となった。この間、我が国の輸出企業は懸命の努力を続けて、為替相場の変動(円高)に対しての耐久力を身に付けた。
本年度の社内設定レートの多くが、1ドル=100円だと聞く。
多少の円高には、耐えられる筈であるし、輸出業者の殆どが原材料は輸入している。
以前のように、“円高で企業業績が左右される。”ようなヤワな会社は既に淘汰されていよう。 円高△。
円安メリット。
* 輸出企業の採算が改善する。=景気にプラス。国内の需給不均衡を外需で埋められる。
上で述べたように、円安で業績改善を図る輸出業者は、今の世の中では生きてはいけない。
輸入業者、或いは我々一般消費者が“高い買い物”をしなくてはならないディメリットの方が大きいと見る。 円安×。
* 外貨建て資産の評価が上がる。=本邦投資家のバランス・シートが改善される。
既に外貨建て資産を沢山保有しているのなら兎も角、個人金融資産1500兆円の多くは、円建ての預貯金に埋もれたまま。
逆に円高になったほうが、外貨建て資産を買い易くなるではないか。
塾長だって、手薬煉(てぐすね)を引いて円高を待っているのだ。 円安×。
* 日本の財が海外の投資家にとって買い易くなる。=デフレ圧力が減殺され、国内資産価値の上昇が見込まれる。
デフレは終わった。これからは、インフレ圧力に対する警戒が必要であろう。
ご存知のように、自国通貨安はインフレを増長させる。
また、円安がどんどん進むようであれば、海外の投資家は日本の財を買わない。
円安が峠を越え、円高になる兆候でも出れば、彼らは日本の財を買う筈である。 円安×。
あれれ、塾長のポジション・トークが入っていることを差し引いても、円安×=円高Oに置き換えれば、
円高O=4個で、円高△=2個ではないか?
原材料・エネルギー資源の殆どを輸入に頼り、食料だって自給率が4割ということは6割を輸入している我が国にとって、“円高=強い円”は、国益に適うのではないのか?
“双子の赤字”をFinance.するために、アメリカは1995年以来、“強いドルはアメリカの国益に適う。”と言い続けているが、我が国も輸入大国の一つとしていよいよ、“強い円は日本の国益に適う。”と言い始めてみてはどうだろう?
何れにせよ、“ドル・円が60~70円になるべきだ!”などと喚いている訳ではない。
まあ、100円前後がドル・円相場の“適切なレベル”かなとは思うが、如何せん昨年までの円安が行き過ぎ、現状のクロス・ベースでの円相場が異常に安い。
その水準訂正が起きても不思議ではないと言っているだけである。
学校の先生に成ったような気分の塾長。
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コメント
こんばんは。
大変・良く理解できる内容でした。
拝聴できる学生さんが、羨ましいです。
投稿: conomy | 2008年6月30日 (月) 23時22分
塾長の理論武装を拝読させて頂き率直な意見を書かせて頂きます。
経済活動の重要な一角を担う投資家の視点を含んで円高のメリット、ディメリットを書かれていることに感銘しました。J・M・ケインズは投資家の視点を理論に組み入れマクロ理論を構築した有名な経済学者ですが、塾長の視点もいつもピカリと光ります。
巨額の経常収支の黒字があるなかで輸入を増やし輸出との不均衡が是正される円高は問題ないのではないでしょうか?円高は消費者に消費の拡大、商品の選択肢を増やします。また、海外の生産者は日本への輸出を増やすことでさらなる経済成長を得ることも出来るかもしれません。貿易の目的は相互に利益をもたらす交換であり、輸出ではなく輸入する力かもしれません。日本にロバート・ルービン氏いれば強い円が国益に適っていると言うかもしれませんね。不公平な円高があるとすれば、これまで日本の発展に貢献してきた人や企業を直撃する円高であり、努力していない産業を守るために犠牲となる円高ではないでしょうか?
補論
円高メリット
* 輸入物価が下る=インフレ抑制、我が国の購買力増大
原材料・穀物・エネルギー価格の高騰を円高によって吸収でき、米国で問題になっているスタッグフレーションの予防策にもなりうる。
* 低金利の維持がし易い=財政赤字の金利負担が抑えられる
金利による利益は大きいが、財政赤字が膨らめば増税もやむなしで引き分け。
* 企業の構造改革が進む=将来の競争力強化
我が国の繁栄をもたらした輸出企業はこれまでの円高の影響により、企業の構造改革、将来の競争力強化のための新たな技術開発と創意工夫により懸命な努力で乗り切ってきた。ゆえに、円高が次なる競争力に打ち勝つための原動力であったことは否定できない。一方で、将来性がある産業が海外進出し、そうでない産業が国内に残った場合は失業者が国内で吸収できない問題もある。ただし、グローバルな視点で見れば企業の海外進出が将来の国際競争力を高める手段であることは非常に重要である。
円安メリット
* 輸出企業の採算が改善する=景気にプラス、国内の需給不均衡を外需で埋められる
食料品、石油関連商品の多くは輸入に依存し円安により輸入コストが上昇する。企業は価格転化により業績の向上を期待するが価格高騰により商品が売れなくなり企業、消費者の両者にとってディメリットの方が大きくなる。
* 外貨建て資産の評価が上がる=本邦投資家のバランス・シートが改善される
個人金融資産1500兆円の多くは円建ての預貯金に埋もれたままで円高が外貨建て資産の購入を容易にするが、かなり保守的な資産でもある。やはり、外貨建て資産の購入のしやすさと資産の目減りによる行動を分析する必要があるため引き分け。
* 日本の財が海外の投資家にとって買い易くなる=デフレ圧力が減殺され、国内資産価値の上昇が見込まれる
ポートフォリオ(国際分散投資)からしてもファンド・マネジャーは円資産を増やさなければならない状態にある。あまり極端に円のポジションを減らすと円市場が好転したとき運用収益を相当に下回り運用競争に負けてしまうからである。) このような機会に、円安では円のポジションを増加させ多くの資金を海外から調達することで国内の金融市場を活性化させるという機会を失う可能性の方が高い。
投稿: smile | 2008年7月 2日 (水) 07時25分
Smileさんの検証の方が、ずっとアカデミックで論理的だと思います。
有り難う御座いました。
投稿: 塾長 | 2008年7月 2日 (水) 13時45分
補論はあくまでも塾長の意見をFirst Opinionとして別の見方を加えたものです。塾長のお見立てがFirst Opinionで円安派を論破するのに十分と考えています。
投稿: smile | 2008年7月 2日 (水) 16時23分
smileさん、
円安派の皆さんを論破する気なんて、毛頭有りません。
我々が議論したように、円高・円安、両方にメリットとディメリットがあります。
“円高罪悪論”が蔓延る中、円高にもいい点があるんだぞということを若干ポジション・トークを混ぜて話しているだけです。
投稿: 塾長 | 2008年7月 2日 (水) 16時57分
円高も円安もメリット、ディメリットが色々あります。立場、期間によって見方は変わるものです。こういう場合、"よい円高、悪い円高”"よい円安 悪い円安”を議論すればいいんですよね。『バランス バランス バランス』
投稿: smile | 2008年7月 2日 (水) 22時39分